第3章:前編
『なぜ日本のアパレルは努力が報われないのか』

失われた前提の中で起きていること

画像: 失われた前提の中で起きていること

こんにちは、ホンマです。

日本のアパレル市場は、この30年で静かに姿を変えました。
1990年に15.3兆円あった市場は、
2022年には8.7兆円。
規模は4割以上縮みました。

一方で、衣類の供給点数は20億点から37億点へ拡大しています。
市場が痩せ、ものだけが増え続けたことで、
商品は市場に触れた瞬間、周囲の相場へ引き戻されるようになりました。

婦人服の実売価格は90年代比で半分近く。
中小ブランドの営業利益率は0〜6パーセント。
「努力すれば何とかなる」という前提そのものが崩れています。
その背景にあるのは、
日本の実質賃金が20年以上下がり続けていること

中間層の購買力が弱体化するほど、
かつて利益の軸だった「1万〜3万円帯」の中間価格帯は維持できなくなります。

実際、この中間帯は市場からほぼ消えました。
中間帯が消えると、ブランドは高価格か低価格に押し出されます。
しかし、多くのブランドはどちらの文脈にも乗り切れず、
利益の根拠を失いました。

さらに、中間帯を支えていたのは、
日本製の製品であることが多かった という事実があります。

丁寧な縫製や素材基準が、その価格帯の意味を担保していました。
いまでは、その生産基盤そのものが残っていません。

ごく一部には、デニムのように
高単価のプレミアム領域に進化した商品もあります。
ただ、それは例外的な存在で、
中間帯の大半は行き場を失いました。

画像: 画像は New Manual HPから

画像は New Manual HPから

中間が縮小したあとに起こる三つの誤解

市場がここまで変質すると、現場では毎回同じ反応が起きます。
どれも一見合理的ですが、今の日本では逆効果になります。

1. 価格を下げれば売れるという誤解

問題は価格ではありません。
入店理由そのものが失われている からです。

静かな商店街で、どの店も値引き札を掲げている。
そんな状況では、誰も足を止めない。
必要なのは、値下げではなく、
「誰が、どんな理由でその商品に興味を持つのか」を作ることです。

2. インスタを強化すれば打開できるという誤解

SNSは「露出装置」であって、
失われた地盤を補う装置ではありません。

特にECでは、露出した瞬間に比較が強制されます。
たとえば ZOZO や 楽天 に出品すれば、
商品は自動的に
 ▶類似商品
 ▶同価格帯
 ▶同カテゴリ
 ▶「この商品を見た人は〜」
と並べられます。

画像: 画像は ZOZO HP検索画面 から

画像は ZOZO HP検索画面 から

価値が伝わる前に、相場の中へ押し戻される。
露出を増やすほど、ブランドは均されていきます。

必要なのは、文脈を翻訳してくれる第三者。
インフルエンサー、KOL、リアル体験など、
商品を「平均値」から切り離す装置です。

3. 生産ロットを減らせば安全という誤解

MOQ(最小発注数量)が高止まりしている状況でロットを減らせば、
単価だけが上がり、リスクはむしろ増します。

撮影費、演出費、ディレクションなど、
帳簿に現れない負荷は残ります。
SKUを減らすほど、一点あたりの負担は重くなる。

問題はロットではなく、
ロットに見合う販売の組み立て方です。

売上が落ちても軽くならない仕組み

アパレルでは、売上が落ちてもコストが同じ速度で下がりません。

内部の判断基準、素材の選定、世界観の精度。
こうした「見えない重さ」が残るからです。
SKUを減らしても軽くならないのはそのためで、
むしろ一点あたりの負荷は上昇します。

どれだけ努力しても報われにくい背景には、
こうした「重さの残り方」があります。

日本では消えた地面が、外には部分的に残っている

外側の市場には、
日本では失われた「中価格帯に近い厚み」が、
断片的に残っている国があります。

例えば、台湾のように、
自国製造が安くないにもかかわらずメーカーが成立している
という特殊な状況もあります。

完全に日本のかつての中間帯と同質とは言えませんが、
日本と比べれば、ブランドが立ち上がりやすい土壌がある。
重要なのは、
努力ではなく「どこで戦うか」を選ぶことです。

後編では、
日本で機能しなくなった前提が、
なぜ台湾では部分的に成立しているのかを見ていきます。

 

■ 今日の「それってホンマかいな⁉」まとめ

実質賃金が下がり続けたことで、中間層の購買力が維持できなくなった

中間価格帯の多くは日本製で、その基盤ごと失われた

ZOZOや楽天に出した瞬間、類似商品と並べられ、価格と意味が「場の平均値」に戻される

値下げ・投稿強化・ロット削減ではこの問題は解決しない

台湾は逃げ場ではなく、日本の構造を照らす「外側の視点」です。

 

◇筆者プロフィール

本間英俊(ほんま・ひでとし)

クリエイティブディレクター。

画像: ■ 今日の「それってホンマかいな⁉」まとめ

国内外のブランド立ち上げや再生を手掛け、感性と経営を統合する独自のブランディングを実践。元「junhashimoto」アートディレクター、現「MINIMUS」をROLAND氏とともに共同設立。アパレル業界にとどまらず、地方メーカーや中小企業のブランド戦略支援にも携わる。

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