第4章:
『サステナビリティで売上は上がらない。では、なぜやるのか?』

「エコ素材使ってます」で売れた記憶、ありますか?
みなさま明けましておめでとうございます。
年末にマッキンゼーの最新レポート『The State of Fashion 2026』が発表されました。
内容を読んでいて、思わず苦笑してしまいました。
「サステナビリティ疲れ」という言葉が出てくるんですが、これ、現場の実感とぴったり一致するなと。
消費者の環境意識は高まっているはずなのに、企業のESG投資への懐疑心も同時に増している。この矛盾、皆さんも感じていませんか?
正直に聞きますが、「エコ素材を使ったから売れた」という経験、ありますか?
私自身、20年以上この業界にいますが、オーガニックコットンやリサイクルポリエステルを前面に打ち出して売上が劇的に変わった、という話はほとんど聞いたことがありません。
むしろ現場で聞こえてくるのは、こんな声です。
「好きなデザインを選んだら、たまたまエコ素材だった」
「着心地で選んだら、結果的にコットンだった」
私たちオジサン世代がコットンを好むのは、環境意識の高さではなく、単にポリエステルの質感が苦手だからです。それだけの話だと思っています。
消費者は「へー、そうなんだー」で終わる 態度行動ギャップの正体
この現象、実は行動経済学できちんと説明されています。
「態度行動ギャップ(Attitude-Behavior Gap)」という概念です。
面白いデータがあって、消費者の70-80%がアンケートで「サステナブル製品を買いたい」と答えるんですが、実際の市場シェアは5%以下なんです(Carrington et al., 2010)。
つまり、頭では「環境は大事」と思っているんですが、実際に店頭で服を手に取る瞬間、優先されるのは「価格・デザイン・着心地」なんですよ。
購買動機の優先順位を正直に並べると、デザインが1位、着心地が2位、価格が3位。
日本だと価格が1位になりそうですが(苦笑)
で、サステナビリティはどこにいるかというと、10位くらいにようやく顔を出す程度じゃないでしょうか。
これ、消費者を責めているわけじゃないんです。
人間の認知構造として自然なことなんです。店頭で「これ、似合うかな」「着心地どうかな」「予算内か」って考えているときに、「この素材、環境に優しいかな」なんて考える余裕、正直ないというのが正直なところではないでしょうか。
しかも、今やあまりにも多くのブランドが「エコ」を掲げるようになったので、消費者は「どうせどこも言ってるよね」と冷めた目で見ています。
サプライヤー側の熱量に比べて、消費者側は「へー、そうなんだー」程度にしかならない。これが現実です。
サステナビリティは「差別化要素」どころか、「最低限の参入条件」にすらなっていないんです。
企業側の熱量と裏腹に、地政学リスクがコストを押し上げる
さて、ここからが本題なんですが、実は企業側も相当疲弊しています。
サステナビリティ推進に莫大なコストを投じているのに、売上には全然貢献しない。それどころか、背後にはもっと複雑な構造問題が横たわっているんです。
2025年、トランプ政権が復活しました。
バイデン政権下で進んでいた「クリーンエネルギー×中国製造」の連携が、あっという間に崩れました。
トランプ政権は化石燃料産業を復活させ、ESG投資への政治的圧力を強めています。米国企業の「ESG投資へのインセンティブ」は急速に冷え込んでいます。一部のカフェのストローがまた、紙製からプラスチック製に戻りましたよね。
同時に、EUと中国の関係も悪化しています。
2026年に本格稼働するCBAM(炭素国境調整メカニズム)というのがあり、これは中国製品に対する事実上の「炭素関税」を意味しています。
中国側は当然「貿易障壁だ」と反発していて、私たちファッション業界の主要サプライチェーンである中国製造が、まさに炭素規制の「政治的武器」になっている状況です。
ここに構造的な矛盾があります。
サステナビリティを推進しようとすればするほど、リサイクル素材加工や関連技術で中国依存が深まるんです。
でも、米中対立・EU中国対立の激化で、「中国依存=地政学リスク」という認識が広がっている。企業は「サステナビリティ推進」と「脱中国」の板挟みになっているんですね。
結果、コストだけが増えて、売上には貢献しない。これが「サステナビリティ疲れ」の正体だと私は見ています。
「言うてるだけ」と「システム化している」の決定的な違い
じゃあ、サステナビリティは無意味なのか。私はそうは思いません。
ただし、アプローチの仕方が根本的に間違っているんです。
「サステナブル素材使ってます」という表面的な宣言だけでは、もう誰の心にも響きません。顧客が求めているのは「エコ素材」じゃなくて、「デザイン・着心地・価格」なんですから。
でも、だからといってサステナビリティを放棄すれば、ブランドの信用は確実に毀損されます。
消費者は「エコで買わない」けれど、「嘘は見抜く」んです。ここが重要なポイントです。
本当の意味でのサステナビリティとは、マーケティング施策じゃなくて、構造改革として捉えるべきだと私は考えています。
特に、中小規模のメーカーやブランドの皆様にこそ、この「構造的誠実さ」は強力な武器になります。大企業のような莫大な投資は不要です。
1.「顔が見える」ことの徹底
どこの誰が、どんな想いで作っているのか。デザイナーの意図、生産背景、素材の選定理由。これをデジタル技術やSNSでオープンにする。それだけで、出所のわからない安価な製品に対する圧倒的な「信頼の差」になります。
2.「作り手の健やかさ」の証明
厳しい第三者監査をパスせずとも、自社のチームやパートナー工場が誇りを持って働いている姿を見せること。それが、今の消費者が最も敏感に反応する「誠実さ」です。
3.「長く付き合う」仕組み
自社製品の修理体制、リペアサービス、アップサイクルプログラム。これは単なるアフターサービスではなく、顧客をファンに変え、ブランドの寿命を延ばす上質のサステナブル戦略です。
これらは「売るため」の工夫ではなく、ブランドの技術と誇りを守り抜くための「構造」そのものなのです。
もちろん、例外はあります。パタゴニアです。
彼らの顧客は「エコだから買う」のではなく、「パタゴニアだから買う」。
サステナビリティが購買動機ではなく、ブランドアイデンティティそのものになっている。「Don't Buy This Jacket」と広告し、修理体制を徹底し、売上の1%を環境保護に寄付する。
この40年以上の一貫性が、態度行動ギャップを超えているんです。
ただし、「後付けのエコアピール」ではこれを真似できません。
「エコ」で買わない。しかし、嘘は見抜く
最後に問いかけたいんですが、あなたのブランドは、サステナビリティを「マーケティング」として掲げているだけでしょうか。
それとも、「構造的誠実さ」として実装しているでしょうか。
消費者は「エコ素材だから」という理由で服を買うことはありません。
でも、サプライチェーンの不透明さや労働環境の劣悪さを知れば、そのブランドを避けるようになります。サステナビリティは購買動機にはならないけれど、ブランド毀損のトリガーにはなり得るんです。
地政学リスクとコスト増の板挟みの中で、大手企業が身動きを取りにくくなっている今こそ、中小規模のメーカーやブランドにとってチャンスでもあります。
表面的な「エコアピール」ではなく、構造的な透明性と誠実さを実装すること。
誰が作っているかが見えて、技術があって、長く付き合ってくれる。
その「当たり前」を愚直に続けることが、この逆風を「誠実さ」という付加価値に変える最良の戦略になると私は考えています。
今回のそれってホンマかいな!? まとめ
■態度行動ギャップ 消費者の70-80%が「買いたい」と答えるのに、市場シェアは5%以下。これは本当です(Carrington et al., 2010)。
■地政学リスク トランプ復活でESG投資が冷え込み、EUのCBAM稼働で中国製造に炭素関税。これも事実です。
■エコ素材で売れない 私の20年以上の実務経験からの実感です。大多数のブランドで、エコ素材は売上の決定打になっていません。
■じゃあ無意味か? 違います。「やり方を間違えるな」という話です。表面的な宣言ではなく、構造的な誠実さを実装すること。それが問われています。
◇筆者プロフィール
本間英俊(ほんま・ひでとし)
クリエイティブディレクター。

国内外のブランド立ち上げや再生を手掛け、感性と経営を統合する独自のブランディングを実践。元「junhashimoto」アートディレクター、現「MINIMUS」をROLAND氏とともに共同設立。アパレル業界にとどまらず、地方メーカーや中小企業のブランド戦略支援にも携わる。
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