第3章:後編
『海外で跳ねるブランドと、静かに消えるブランド』

画像: 【ファッション業界人コラム】それってホンマかいな⁈〈5〉

分岐点は「心理の地盤」にある

ブランドが海外で根を張るかどうかは、構造ではなく「心理の地盤」で決まります。

海外ポップアップは、単発の売上を検証するためのイベントではありません。
生産と販売、そして意味や文脈の結び方を、現地の市場に合わせて組み換える工程です。
中編では、そのために必要な導線について触れました。

ここからは、その導線が実際に「土に根を伸ばせるかどうか」を決める、さらに深い層の話になります。
表面の構造をどれだけ整えても、国が違えば結果は変わります。
その差を生んでいるのは、産業の仕組みやSNSのアルゴリズムではなく、もっと見えにくい土台、すなわち「未来をどう捉えるか」という心理の基盤です。

日本と台湾 構造が似ているのに結果が異なる理由

日本と台湾は、外側だけを見るとよく似ています。
ファストファッションが伸び、アパレル市場は縮小し、SNSが購買の起点になっている。
ローカルブランドとグローバルブランドが混在し、若者の情報源はTikTok中心です。

それにもかかわらず、
台湾ではブランドが素早く跳ね、日本では動きが鈍い。
この違いは「構造の差」では説明できません。

むしろ、構造が似ているからこそ、“心理の違い”が表面に現れやすくなると言えます。

台湾の若者は、未来の自分を前提に選ぶ

台湾では、未来を前向きに捉える空気が確実に存在しています。

1)最低賃金が継続的に上昇

台湾の最低賃金は9年連続で上昇しています(行政院主計総処 2015-2024)。
最低時給はこの10年で約38%上昇しました。
可処分所得が増える環境は、消費の「未来志向」を後押しします。

2)TSMCによる国家レベルの期待の押し上げ

TSMC1社が台湾GDPの約15%を支えており(台湾財政部 2023)、製造業は好調です。
若年層の平均所得も向上し、雇用市場の体感も改善しています。

3)消費者信頼感の改善

台湾の消費者信頼感指数(CCI)はコロナ後に上昇基調に戻り、
アジア主要国の中では高い水準を維持しています(NielsenIQ 2023)。

これらの環境で育つ若者にとって、消費は「未来の自分への投資」になっています。
ファッション選びにおいても、今の自分ではなく「これから進んでいく自分」を前提にして選びます。

上がっていく生活水準、伸びていくキャリア、変わっていく社会。
未来を前提にした自己投資が、ブランドを力強く押し上げています。

日本の若者は、現在の自分を軸に消費している

対照的なのが日本です。

・実質賃金は10年以上連続で低下(厚労省 統計)
・GDPの伸びは主要国で最も低い水準
・消費者態度指数はコロナ前から継続的に低迷
・SNS上の競争構造が「失敗しない選択」を強化

未来が読みにくい環境では、消費は「投資」ではなく「防御」になります。
無難、間違いない、損しない。
こうした言葉が意思決定を支配し、ファッションも“現在の自分を守るための道具”として使われやすくなります。

結果として同じ商品でも、日本では伸びず、台湾では跳ねる。
ブランドが果たす役割自体が、国によって完全に異なっているのです。

同じ商品でも、跳ね方が変わる理由

服は本来、未来の自分を形づくるためのツールです。
台湾の若者にとって、それはごく自然な認識になっています。
だからブランドのストーリーも受け取られやすく、SNSでの拡散も早い。

一方で日本では、服は「今の不安を和らげるもの」として消費されやすい。
未来を描くための消費と、今を維持するための消費。
この差が、ブランドの跳ね方を決定的に分けています。

エビデンス

・SNS→購買のリードタイム
 台湾:平均38時間
 日本:平均96時間
 (iKala 2024 Social Commerce Report)

・ポップアップ後の回遊率
 台湾は日本の2.4倍(PwC Taiwan 2023)

心理地盤の差が、構造に乗ったすべての数字を押し広げていくのです。

だから台湾は、海外展開の最初の一歩に向いている

台湾には未来志向の心理があるだけではありません。
海外ブランドの文脈を翻訳する文化があり、SNSの反応速度も速く、日本ブランドへの信頼も厚い。

つまり最初から「意味が立ち上がりやすい土壌」が整っています。

ブランドの根が最も伸びやすい海外市場とは何か

それは、構造が似ている国ではなく、心理が未来を向いている国です。
そして、その条件を満たす国のひとつが台湾です。

海外に踏み出す最初の一歩として、台湾ほど合理的な市場は多くありません。
単発のポップアップで終わらせず、長期の市場育成へ接続できる場所。
それが台湾という選択の本質です。

もっと深く知りたい方へ

今回の内容を踏まえた上で、
「うちのブランドは台湾と相性が良いのか」
「台湾で根を張るために何から着手すべきか」
といった相談をよくいただきます。

もし個別に確認したい点があれば、まずはLINEに登録して、そこから質問してください。
いただいた質問にはすべて目を通しています。

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今回のそれってホンマかいな!?まとめ

海外で根を張るかは「構造」ではなく「心理の地盤」で決まる

台湾の消費は「未来の自分」を前提に動く

日本の消費は「今の自分」を守る方向に寄る

この差が、同じ商品でも跳ね方を決定的に分ける

 

◇筆者プロフィール

本間英俊(ほんま・ひでとし)

クリエイティブディレクター。

画像: 今回のそれってホンマかいな!?まとめ

国内外のブランド立ち上げや再生を手掛け、感性と経営を統合する独自のブランディングを実践。元「junhashimoto」アートディレクター、現「MINIMUS」をROLAND氏とともに共同設立。アパレル業界にとどまらず、地方メーカーや中小企業のブランド戦略支援にも携わる。

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