第3章:中編
『台湾で跳ねるブランドと消えるブランドの決定的な違い』
ポップアップ成功の前提条件とは何か

日本市場で疲弊しているブランドは、台湾で巻き返せる可能性が高い
前編では、日本のアパレルが「努力では報われない構造」に入り込んでいることを見てきました。
中間価格帯は消え、商品は露出した瞬間に相場へ押し戻され、
どれだけ工夫しても意味が伝わりにくい ── そんな地盤の喪失が起きています。
いま必要なのは「どこで戦うか」を変えること。
そして海外に挑むとき、最初のボトルネックになるのが、
ポップアップを“売上テスト”として扱ってしまうことです。
海外ポップアップとは、売れた/売れなかったを見る場所ではありません。
その国でブランドが動き続けるための「導線」をつくる作業です。
導線が整っていなければ、どれだけ売れても翌月には何も残らない。
逆に導線が機能すれば、売上は“結果”として後からついてくる。
今回の中編では、
台湾で跳ねるブランドと、跡形なく消えるブランドを分ける導線設計を、具体的に整理していきます。
1 海外ポップアップは「売上テスト」ではない
台湾ではKOL(インフルエンサー)の影響が、日本とは桁違いに強いんです。
iKalaの調査では、台湾のSNS使用時間は日本の約2.5倍、
さらに台湾消費者の75%が「KOLの影響が購買決定に直結する」と回答しています。
これは日本の推計30〜40%のおよそ1.9倍です。
加えて、台湾のデジタル広告市場に占めるインフルエンサーマーケティングの割合は14.3%。
日本の1.5%と比べると約9.5倍です。なかなか大きい。
つまり台湾は、認知の立ち上がりが極端に早い「瞬間最大風速の市場」ともいえます。
なので、ここで誤解してはいけないのはーー
「売れた=地盤がある」という意味ではないことです。
台湾は熱量がすぐ作れる反面、
導線を整備していなければ、その熱は翌月には跡形もなく消えます。
だから海外ポップアップの本質は、
消費者文脈・SNS構造・サプライチェーンとの
「接続点」をつくることであり、
ポップアップの売上はあくまで副産物にすぎません。
2 単発イベントが定着しない理由
単発イベントが市場に残らない理由は、その国の生活動線に接続していないからです。
典型的な失敗例は次の通りです。
・KOLでバズらせて満足する
・イベント終わり、そのまま帰国する
・ローカルECがない
・現地SNSやローカルサポートがない
・卸のパイプがない
・追加製品にとても時間がかかる
これではSNSに記念写真が残るだけで、市場側には何も残りません。
接点を増やしてカスタマージャーニーを改善すると、業界事例では、売上が2倍~4倍に増加した事例も珍しくありません。
海外進出は売上ではなく、「導線構築率」で評価すべきプロジェクトです。
3 初回ポップアップで設計すべき「7つの導線」
海外で根を張るブランドは、例外なく7つをセットで考えています。
1)誰にリーチするのか
台湾はSNS起点の購買が日本の2倍以上あり、「最初に誰に見つかるか」でその後の広がりが大きく変わります。
既存ファン、KOLフォロワー、百貨店の顧客など、リーチしたい層を具体的に決めたうえで、ポップアップの場所・日程・告知方法を設計する必要があります。
2)どの文脈でブランドを伝えてもらうのか
台湾ではKOLの信頼度が高く、購入動機の約40%が「KOLの生活文脈に合うか」と言われています。
単なる「告知役」ではなく、その人の日常や価値観の中で自然にブランドを語ってもらえるかどうかが重要です。ブランドと世界観がずれているKOLを選ぶと、一時的な話題は出ても、ブランドの芯は届きません。
3)現地でストレスなく決済できる仕組み
どれだけ反応が良くても、「その場で簡単に買える」状態がなければ熱は冷めてしまいます。
クレジットカード決済に加え、主要なモバイル決済への対応が理想です。自社だけで難しければ、現地法人とのJVやローカルEC事業者との提携も選択肢に入ります。
4)卸先候補との接点をどこでつくるか
ポップアップは一般消費者向けのイベントであると同時に、「BtoBへのショールーム」としても機能します。
事前に百貨店バイヤーやセレクトショップ、ECモール担当者などに声をかけ、会期中に必ず来てもらう段取りを組むことで、ポップアップ後の卸展開につながる接点をつくれます。
5)ポップアップ後も「また見られる場所」を用意する
台湾では「実物を見たあと、後日ECで買う」という行動が一般的です。
台湾のEC化率は10.4%と日本(7.9%)を上回り、消費者は実店舗とオンラインを使い分けています。ポップアップ後に商品を見られる店舗やショールーム、ローカルECサイトなど、「あとで思い出してもアクセスできる場所」を複数用意しておくことが定着率向上の鍵になります。
6)発信の基盤となるSNSコミュニティを決める
単発の投稿だけでは、熱量はすぐに薄れていきます。
Instagram、Facebook、LINE、どのプラットフォームをベースにして情報を集約するのかを決め、そこにフォロワーを集める導線をポップアップ中から設計しておきます。顧客の声をそこで受け取り、次の商品や企画にフィードバックしていくことが、現地での「ブランド理解」を高めます。
7)追加生産を即時反映できる体制
ポップアップで手応えを感じたのに、追加生産に数カ月かかってしまうと、せっかくの熱量は失われてしまいます。
台湾は中国ほど大ロットを求められないため、現地工場やローカルパートナーと組み、少量からでも追加生産できる体制を用意しておくと、売れ方に応じた素早い商品フォローが可能になります。
まとめ
導線を整備できても、それだけでブランドが伸びるわけではありません。
台湾と日本は、生産・販売・流通の表面的な構造はよく似ています。
しかし、似ているからこそ「小さな消費心理の差」が巨大な結果を生みます。
同じ構造を持ち込んでも、台湾でだけ跳ねるブランドがあります。
それはモノの良し悪しでもPRの上手さでもなく、「消費者が未来をどう捉えているのか」という心理の地盤が違うからです。
次回の後編では、この心理の地盤がブランドの跳ね方をどう変えるのかを掘り下げていきます。
■ 今日の「それってホンマかいな⁉」
・ポップアップは「売る場」ではなく「市場と結び直す場」
・単発売上より「導線構築」がブランドの未来を決める
・台湾では導線が整えば翌月以降の伸び幅が大きく変わる
◇筆者プロフィール
本間英俊(ほんま・ひでとし)
クリエイティブディレクター。

国内外のブランド立ち上げや再生を手掛け、感性と経営を統合する独自のブランディングを実践。元「junhashimoto」アートディレクター、現「MINIMUS」をROLAND氏とともに共同設立。アパレル業界にとどまらず、地方メーカーや中小企業のブランド戦略支援にも携わる。
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